【後編】グロービスMBA准教授・川上慎市郎×中村あきら対談「日本のMBAと海外のMBAの違いはこれだ!」

グロービスMBA准教授・川上慎市郎×中村あきら対談
グロービス経営大学院でMBAの講師を務める川上慎市郎さん。専門は、ネットマーケティングやアントレプレナーシップだ。日経ビジネス編集者として何千という経営者にインタビューしてたくさんの日本人にビジネスの最前線を伝えていた。その後、現在のグロービスに移りたくさんの起業家やビジネスマンを輩出している。今回は、日本のMBAと海外のMBAの違いは何か?日本のMBAの最前線に立つ川上さんから日本がこれから勝てる分野とは何か?を聞いた。
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あきら 日本で受けるMBAと海外で受けるMBAの違いを教えてもらいたいですね。海外のMBAと日本のMBAは、今の時代だとみんな海外のMBAに視点として行くのではないかなと思っています。しかし日本のMBAの良さもあると思うんですよね。その違いというのは何なのですか?

グロービス川上慎市郎MBA

川上 僕はどんどん海外に留学して、世界中を見てほしいと思うし、いろいろな国の人たちといろいろな勉強をしてほしいと思っています。しかし、やはり英語が出来ないとそもそも話にならないという問題もあります。英語も学ぶために行くという方はそれでもいいのですが、そこは、日本の国内のMBAで英語のハードルを超えなくても、日本語の自分のネイティブな言語でしっかり学びたいところを効率的に学べるという良さがあると思います。実際に、働きながらグロービスに通い、学びたいところだけを学ぶことに魅力に感じて受講する生徒はとても多いです。

あきら 習う内容では何か違いがありますか。例えば、アメリカとかで習うとアメリカのビジネスの事例やネットの事例が中心になったりするではないですか。日本で学ぶと、ニコニコ動画の事例など、アメリカでは取り扱わない事例を使うということは多いのですか?

グロービス川上慎市郎MBA

川上 実はみなさん勘違いしているのですが、MBAスクールというのは、例外はもちろんありますが、実は世界の教育システムの中でも、極端なまでにプラットフォームによる標準化が進んだ教育システムなのです。何が起こっているのかというと、ハーバード大が実質的な教育プログラムのデファクトスタンダードを握っているのです。彼らは、世界中のビジネススクールが自由に使えるように、自分たちのカリキュラムと自分たちの教材と、その教材を使った教え方まで全てオープンにしています。だから、そのプラットフォームに乗ってしまうと、ハーバードと同じMBAスクールを今作ろうと思っても作れてしまいます。それならハーバードに行けばという話なのですが、ハーバードの真似をすること自体はとても簡単です。だから、用いる事例に国々の特徴が多少出ますが、教えるべきものというのは、世界中でほとんど大差がありません。グロービスも、実際には教材の3分の2ぐらいはハーバードを初めとする世界中の他のMBAスクールの教材を使っています。オリジナルの教材は3分の1ぐらいですね。なぜ全部オリジナルにしないかというと、前にも述べたようにものすごくコストがかかるのと、教えなければならないものが他のMBAスクールと大して変わらないからです。

あきら あとは、日本語と英語の違いというのもあると思いました。英語だとどうしても、英語で経営学を学ぶ時に深さが少し変わってくるのではないかと思うし、日本語で学ぶ深さと英語として学ぶ深さが、英語は母国語ではないので、どうしても学問的な深さを学ぶには難しいのではないでしょうか。もちろん海外でのネットワークという目的があれば、それでいいと思うのですが、日本の経営学、世界中の経営学を学ぶというのは、やはり日本語で学ぶほうがメリットがあるのではないかと感じました。

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川上 正直言うと、先程も言ったように、教える内容自体はどこもそれほど変わりません。極端なことを言えば、それを語学的に理解できているかどうかは、受講者の問題なので、英語で聞いていて分からなかった、日本語で聞いていれば分かるというレベルの理解の違いはあります。ただし、英語だから深く学べなくて、日本語だからということはなくて、そこはどこも変わりません。

あきら あとは、日本のMBAを選ぶのは、日本の中でのネットワークを作りたい人にはいいのではないかということですね。

川上 ひとつはあります。日本を軸足にして、海外の人と何かあった時に、多少議論ができるレベルにと思う程度ならいいです。けれども外国人のど真ん中に飛び込んで行って、周り全員が外国人で、自分1人だけが日本人という中で、徹底的に戦い続けて勝ち続けてやるぞと思う人は、おそらく日本のMBAを取っても、その能力があまり身に付かないかも知れません。そういう方は、海外のMBAスクールに行く意義があると思います。

グロービス川上慎市郎MBA

あきら 日本人の人種的な性格的な経営観点と、アメリカ人の経営の仕方は違っていたりすると思います。ここで学ぶことでそういう違いはありますか。

川上 一般論として言うと、例えば、アメリカとか欧米のアングロサクソン系はとてもコンセプト的な発想を重視します。コンセプトがしっかりまとまれば、あとの実行はお前らアジア人がやれというような投げ方をします。あの感覚はアジア人ではなかなか理解できません。アジア人は現場から、オペレーションから積み上げていく発想の人たちも多いので、そんな考え方は実際できなければ意味がないというので、ものの見方の違いのようなものはあると思います。

あきら 海外の人の考え方で学ぶべき事例はありますか?例えばアメリカ人は、歴史的に土地の開拓をしてきた民族なので、シェアを広げるのは得意なイメージがあります。しかし日本人は決められたパイの中で、深さを追求していったイメージでそこに得意さがあると思っています。そういう違いも事例としてありますか。

グロービス川上慎市郎MBA

川上 事例というよりも、ビジネスの志向性のようなものは、確かにアメリカと中国は、世界の中でもどちらかというと独特です。とりあえずシェア取ったら勝ちという世界です。シェア取るのに死ぬほど努力してきます。日本やヨーロッパはどちらかというと、周りとどのように協調して自分がハッピーになるかという、シェアより質の部分にとても重きを置く傾向があると思います。だから、どちらがいいという話ではないのですが、両方のビジネスの思考があるということを知って、世界を見てみると、いろいろ面白いですよ。それがビジネスに役に立つのではと考えています。

あきら やはり日本人は得意なところを伸ばしたほうがいいと思うのですね。

川上 それはそうですが、でもそれでアメリカと中国にボロ負けしたら話にならないので、なんとかしなくてはという思いはあります。

グロービス川上慎市郎MBA

あきら アメリカ的、中国的なビジネスモデルに勝てるものは、キーワードとして、どのような分野になってきますか。

川上 たとえば、インターネットの世界も、今まではかなりボリュームとかシェアとか、ある意味「数で押す」ような戦い方が多かったと思うのですが、やはりこれからは、ハイコンテクスト(言葉以上のものに重きを置くこと)の物が受け入れられていく時代になってくるよねと言っている人たちもいます。ハイコンテクストのほうへ、これからもっと動いていくよねと言っている人たちは、アメリカや中国の中にもいます。その部分に関して、やはり日本人が一番得意だったりします。

あきら 日本語の言語自体がハイコンテクストですからね。

日本はものすごくハイコンテクストな文化

川上 そうです。ものすごくハイコンテクストです。だからLINEが普及している理由は、言葉ではなくて、あの微妙なキャラの表情でスタンプだけ送れば意味が分かるからなのです。あれは本当にアメリカや中国の人は、思いもつかないと言っていました。アメリカや中国ではキャラクターで何かを伝えるのは、基本的には幼稚な事だと捉えられてしまうので、彼らが使うWhatsApp(ワッツアップ)やWeChat(ウィチャット)といったアプリもスタンプ機能がついていますが、ほとんど使われていません。LINEだけに、異様にスタンプが普及しています。そして、そういうハイコンテクストなコミュニケーションが好きな国の人たち、たとえば中東や東南アジア、あとラテンの世界、スペイン語圏などで、かなり受けています。

スペインLINEスペインのLINE

 僕もスペインに行った時にLINEで、お店の人と喋っていて「うちの妻がどんな色の口紅が欲しいのか今LINEで確認するね」と言って写真を撮って、見せたら、「あなたはスペインのアプリ使ってるんだね」と言われて、「いやLINEって日本のアプリなんですけど」というと、びっくりしてました。LINEって、スペイン人にとってはスペインのアプリに思われている。そのぐらい、彼らのコミュニケーションに親和性があったということです。だからこの分野は、日本から外に持って行ける部分だと思うし、世界に通用する部分だと思います。あとは、もう少し上手くやっていく方法をネットでも、それ以外のところでも作っていくかが課題ですね。

あきら なるほど。面白いですね。では日本のMBAの最前線で教えている川上さんとしては、これから日本が勝てる分野はLINEのようなハイコンテクストな分野だということですね。まさに日本人が得意とするものをいかにサービスに落とし込めるかがカギですね。本日は貴重なお話を本当にありがとうございました。

川上 こちらこそ、ありがとうございました。

グロービスMBA准教授・川上慎市郎×中村あきら対談

中村あきら×川上慎市郎対談終わり
(構成・編集 湯ノ口直樹

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日本のMBAで日本人が勝てる分野を学び、仲間と共に成長しよう!

今までの対談では、様々なMBAについての対談をやってきた。
その中でも今回は、日本のMBA講師である川上慎市郎さんからの話だった。

今回の対談でわかったことは、日本のMBAの魅力は日本のネットワークをつくれること、そして日本人が勝てる分野を共に学べるということに尽きるだろう。

海外のMBAでは、色んな人種の中で共にビジネスを学ぶことによる大切さを感じた。
日本のMBAはまさに日本人としてどう戦えばいいのかを学べる場だって言えるね。

日本だろうが、海外だろうが、そのビジネスや経営を学ぶ大切な期間であるMBA。
自分が一体何を得たいのか?多くの可能性を知ったうえで、自分に足りないものは何なのか?
それを見たうえで決めていったらいいと思ったよ。

川上さんの元で素晴らしい経営者・ビジネスマンがこれからも輩出されていく気がする。
日本でMBAを学ぶんだったら、ぜひ川上さんの元で学ぶことをおすすめしたい!

川上さん、今回はありがとうございました!

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