【後編】田島硝子インタビュー「海外でシェアされて国内でヒットした富士山グラス」

田島硝子インタビュー
1956(昭和31年)年、創業者・田嶌松太郎氏によって設立した「田島硝子」。以来半世紀以上、お客様からのモノづくりの要請に応え、様々な硝子食器製造技術を開発・採用し「江戸硝子」の名門となった。今回AKIRA DRIVEでも扱っている「富士山グラス」シリーズ。田島硝子の60年のデータベースと職人の技術の結晶の富士山グラスは、日本を超えて海外でも爆発的に売れている。田島硝子の歴史を紐解き、その大ヒットの秘密に迫った。
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あきら この富士山グラスシリーズをうちでぜひ扱って行く予定です。この富士山グラスシリーズが生まれた背景などを教えていただけたらと思うのですが。

富士山が世界遺産になったことで、日本中のものづくりが富士山グッズを作った

田嶌 単純に言うと、富士山が世界遺産になりました。ご多分にもれず陶器屋さんや、さらにはタオル屋さんもそうかもしれません。国内のいろいろな物作りメーカーさんが富士山グッズを作りました。うちもその波にまず乗りたいなと思いました。

富士山世界遺産登録へ富士山が世界遺産に

あきら 日本全国でそういう波があったんですね。

田嶌 丁度そのタイミングの前に、御殿場のあるリゾートホテルさんから、富士山にからんだグラスを作れないかというご依頼がありました。御殿場のリゾートホテルさんなので目の前に富士山が見えるのです。ちょうど世界遺産ということもあって、まず、うちの第1段として富士山の宝永グラスが出来上がりました。今まで江戸切子の商品は自社商品でたくさん作ってきましたが、カットをしていない硝子、江戸硝子として売る商品は、あまり作った実績がありませんでした。それを作ることで、お客さまからいろいろな反響をいただけたのです。
物作りは、今までうちは下請けでしか仕事をしていなかったので、問屋さんからの反響はあってもエンドユーザーからの反響は中々味わえませんでした。エンドユーザーからの反響などが貰えるのは、モノづくりをしている身としてはとても面白い体験でした。

富士宝永グラス富士山の宝永グラス

あきら 下請けや受注生産だと企業とのやりとりが中心ですもんね。

田嶌 第2段として江戸切子用のグラスをメインとして作っている会社なので、その被せガラスの技術を応用して「富士山の祝盃」という名前の、日本酒のグラスを作りました。日本酒のグラスを作って、逆さにすると富士山になるし、普通に使えばもちろんぐい呑として使うことができます。こちらは日本商工会議所が主催している全国観光土産品連盟共催の、お土産物審査会の工芸部門で、経済産業大臣賞をいただくことができました。

富士山祝杯ぐい呑み富士山祝杯ぐい呑み

あきら すごい。

田嶌 そういうものもが箔になり、例えばデパートさんに並べていても賞を取った商品ですよと言えるのでお客さんの反応も違うし、インバウンドの今の時代(中国や台湾のお客さんの爆買い)の波にも乗って、大変この祝盃が売れたのです。これはこれでお客さまの個人の反応や直接うちに「これ買えませんか」とか「どこのデパートに行けば売ってますか」など、いろいろな問い合わせがくるようになりましたのでとてもうれしくなりました。

あきら うまく波に乗ったんですね。

中村あきら×田島硝子代表田嶌大輔

田嶌 でも今までの2商品が少し奇をてらった商品というか、少しビールに特化したとか、飲酒用のグラスとか、使い勝手としてはそれしか使えないというのがありました。それなら富士山の3部作ぐらい作りたいなと思っていたので、最終章は何を作ろうという時に、富士山はもちろ入れるのですが、オーソドックスに使えるグラスを作ろうと。そうすれば今のインバウンドの波ではないですが、ヨーロッパの人やアジアの中国の人、またはアフリカの人でも、コップというものは全員分かっているので、誰でも使い勝手が分かるもので、富士山と一目で見て分かるものを作ろうというので富士山ロックグラスができました。

あきら あの富士山ロックグラスができたんですね。

富士山ロックグラス富士山ロックグラス

田嶌 昨年度で祝盃の、ぐい呑がコンペで大賞をいただいたので、次は違う所の審査会って何かないか、そう言えば元々は観光庁が主催で、この10年ぐらい、クールジャパン事業の一環で、日本のいいものを世界にアピールしていこうというので、お土産グランプリというコンペが十数回目で、やっているのは知っていました。今度はそちらにぶつけようと、元々考えていた、誰でも分かる誰でも使えるグラスとして、富士山のグラスを作りました。お土産グランプリは日本人だけではなくて、主催者は、日本のいいものを海外にむけてアピールする事を主題としたコンペですので、それで評価をいただければうれしいと思って、初めて田島硝子として出したら、グランプリを頂くことが出来ました。

海外に瞬く間に広がった富士山グラスシリーズ

あきら 国内だけじゃなくて中国や台湾からも、一気に注文が来たんですよね。

田嶌 そうです。これ自体が今年の1月に表彰式があって、お土産グランプリの大賞をいただきました。そのあと、2月ぐらいから発売しました。
そして実際に色を入れた飲みものを入れて、山肌に富士山が映り込む面白さなどをネットでアップすることによって、買った人が自分でこういうものを入れたら、こういう色になって面白いという話になります。そうするとフェイスブックにどんどん転用していきます。それがある時、台湾や中国、今中国だとウェイボーという、中国版のツイッターで転用して、そこからまた拡散していきました。うちが発売して1カ月も経たない、2月の下旬ぐらいに一気にうちのホームページに中国語や英語など、中国人からたくさんのメールが来るようになりました。

 様々な色の富士山飲み物によって富士山の色が変わる

あきら へー面白い。

田嶌 お土産グランプリは確かに取りましたが、テレビで取材を受けたわけでもないし、なんぞやと思っていました。そうすると今度はテレビ局の日本の取材班がネタ探しをネットで検索されており「このグラスをネットで欲しい欲しいと騒いでますが、何ですか?」ということで取材に来られて、それで取材を受けました。そこから国内のほうにも一気に火が付いて、3月の中旬ぐらいに日本テレビさんの番組に出たことによって2日ぐらいで数千個の注文が一般の人から来ました。それぐらいの反響があって、テレビに出た時点の1日間は、ヤフーの検索ランキングで4時間ぐらい、富士山ロックグラスが1位でした。

あきら 中国や台湾が先だったんですね。逆輸入ニュースみたいな感じだったんですね。

田嶌 そこまで反響があるということは、全国の百貨店や、雑貨屋や小売店からも「扱えますか?」とか「どこから買えますか?」と電話が掛かってきました。発売から7カ月8カ月経ちますが、月の生産数と注文数が一緒なぐらいで、今の時点で1万数千個の注文残が残っています。もうすでに数万個お客さまの手元に出荷してるのですが、この数カ月で1万数千個の注文をいただいて、日々作ってるというような状態です。

田島硝子インタビュー

あきら すごい。これがなぜ台湾とか中国とかで広がったかという分析はされているのですか?

田嶌 それは今、日本に旅行客、外国人が来ます。特にアジア人、台湾人、中国人は富士山が大好きなのです。旅行客で、成田空港や羽田、または関空に着くなり、日本の中を旅します。例えば東京でまず観光します。大阪へ行く途中、絶対富士山で一泊します。富士山で一泊して大阪に行って、大阪の関空から帰ります。日本のツアーの中で、ほぼ富士山がルートになっています。日本人はもちろん富士山が好きかもしれません。けれども台湾や中国人の富士山に対する単体の山としての綺麗さなのかは分かりませんが、日本イコール富士山だと思っている人が多くて、それに伴うグッズなどでいいものは、すごく欲しがります。これは売れてからあとから知ったことですが、だから売れてるのかなと思います。

あきら へー知りませんでした。面白いですね。

田嶌 中国人みんながみんな、このコップに対して、欲しいと言ってくれているのは本当、多分もう一生味わえないんじゃないかというぐらい、作っているほうからしてみればうれしいことではあります。しかしこれは中国のこれからの景気にも左右されることなので、それに特化していると、商売としてとても危険です。今回も中国だけじゃなく、カナダとかヨーロッパからも問い合わせも来ています。やはり政治的にはいろいろあるかもしれませんが、違う文化の人が評価してくれたということは素直に嬉しいです。

あと、うちは富士山にロイヤリティは払っていませんが、富士山というものの再評価というか素晴らしい山なんだなと思います。外国人が富士山のことを、こんなに思っている人が多いんだということを改めて知りました。だから本当、富士山には足を向けて寝られないなとは思います。

富士山グラスシリーズ富士山グラスシリーズ

あきら 日本の経営者さんは、富士山は日本一の山なので、自分の事業が日本一になるとか、そういった面で買って、家に置いてもすごくいいんじゃないかなと思います。しかも富士山は霊峰富士って言われるぐらい、とてもパワーを持っているので、そういう意味でも家や会社のパワーになりますよね。

田嶌 この富士山ロックグラスは父の日にかなり売れたのです。社長さんもお父様がいらっしゃるかと思いますが、父の日は母の日と違って、あげるとしたら何をあげるんだというのがあります。いいかげんネクタイもあれだし、といって予算もそんなに毎回、予算さえ高くすればいくらでもいいものをあげられるかもしれないけれども、誕生日もあるし、父の日は大変悩みます。ギフトは、あげる人は貰った人にいい物をもらった、いい物をくれたねと言われたいのです。どうして選んだのかということを、多少うんちくも言いたいのです。

田島硝子・田嶌大輔さん

あきら そうですね。みんな悩みますよね。

田嶌 このグラスはそれが全てマッチできたのです。説明しなくても、飲み物を入れて、これは綺麗だと。飲み物も種類によって富士山の色が変わるねとか。それは誰でも体感できるのです。器用な人が体感できて、不器用な人が体感できないものではなく、誰でも体感できるということと、あげた人が貰った人からセンスがいいね、面白いものを見つけたねと言われたいのです。そうするとセンスがいい人だと思われます。自腹を切ってプレゼントをするので、それがせめてもの喜びなのです。

あきら プレゼントあげて「センスがいいね!」って言われるのは嬉しいですね。

田嶌 ギフトというのは、なんでもそうだと思うのです。千円だろうが1万円だろうが10万円の物をあげようが、相手に喜ばれたいものをあげたいのです。だからそういう意味で、5千円という値段も含めて、木箱に入っていてしっかり贈答にもなっていて、うんちくも入れてという、ポイントポイントを押さえられたと言うのでしょうか。それが大変お客さんからも評価されていて、リピートも多いのです。法人企業や一般の人からもリピートが多いです。この前、誰々さんの友達や知り合いのお祝があったのであげたらとても喜んでいたそうです。今度誰々さんがお祝いだから、そっちにもと言って、結構リピートが多いというのは、そういった要素を全て兼ね備えられたということで、売れているのではないのかなと思います。

中村あきら×田島硝子・田嶌大輔さん

あきら へえ、了解です。僕のサイトでも、どんどん紹介していきますので、ぜひよろしくお願いします。

田嶌 分かりました。

あきら 今日はありがとうございます。

田嶌 いえいえ。どうもありがとうございました。

中村あきら×田島硝子3代目・田嶌大輔インタビュー
終わり

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