【前編】グロービスMBA准教授・川上慎市郎×中村あきら対談「MBAは自分の向いてない方向性が分かる場所!?」

グロービスMBA准教授・川上慎市郎×中村あきら対談

グロービス経営大学院でMBAの講師を務める川上慎市郎さん。専門は、ネットマーケティングやアントレプレナーシップだ。日経ビジネス編集者として何千という経営者にインタビューしてたくさんの日本人にビジネスの最前線を伝えていた。その後、現在のグロービスに移りたくさんの起業家やビジネスマンを輩出している。今回は、日本のMBA(経営学修士)を教える立場として経営者とは何を学ぶべきなのか?MBAでは何を得られるのかを聞いた。
【中編】「やりたいこと出来たらさっさとMBAやめて起業しろ!」はこちら
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中村あきら(以下、あきら) 今日の対談の相手はグロービスMBAの先生をされている、川上慎市郎さんです。川上さんは、グロービス経営大学院の教員として、アントレプレナーシップ(起業家精神)やインターネット業界の経営戦略などを主に教えています。今日はそんな川上さんに、ぜひいろいろ聞けたらなと思ってます。
そもそも、なぜグロービスの教員になったんですか。きっかけを教えていただけますか?

グロービスMBA准教授・川上慎市郎(以下、川上) 動機を話すには子供の頃まで遡ることになります。高校生の頃に、父の書斎にあったピータードラッカーの「未来企業」という本をたまたま手にとって読んだときに衝撃を受けたんです。それ以来、僕は一生をかけて「マネジントの大事さを世の中の人たちに伝えていこう」と心に定め、そのために大学も就職も選びました。最初は、日経BPに就職して記者になりましたが、「教える」ということに可能性を感じて、グロービスの講師になりました。

あきら 実際の授業では、どのようなことを教えるのですか?また、どのようなものを求めて生徒が集まってくるんでしょうか?

グロービス川上慎市郎MBA

川上 それは、グロービスに限らず、MBAが何を教えているかをお話しした方が分かりやすいと思います。MBAスクールでは、通常は「ケーススタディ」という形式の講義が行われます。あらかじめ企業事例(ケース)を学生に読んできてもらい、その上で「あなたがこの当時の会社の経営者だったら、これからどのようにしたらいいと思いますか」と問いかけ、学生同士に討論をしてもらいます。そういう議論を通じて、経営学の知識や考え方のエッセンスを学び取ってもらうのですが、ポイントはただ学ぶのではなく、なぜそれが必要か、自分たちの立場に置き換えるとどう利用できるかなど、実践的に理解を深められるようになっていることです。グロービスで取り扱っている情報の一つひとつはネットや書籍にもあるものですが、この「実践的に学ぶ」というのを学生は求めているのだと思います。

あきら ケーススタディで、「ニコニコ動画」(ドワンゴ)などの企業も扱っているんですよね。実際に教科書を見せてもらってびっくりしました。もっと古典的な会社を題材にしてるかと思いました。プログラムを作るのは、かなり骨が折れるんじゃないですか。

グロービス川上慎市郎MBA

川上 かなりの時間と手間がかかります。ここにある「ニコニコ動画」や「上海サントリー」は両方とも僕が書いたケースですが、これを使った3時間の講義を設計して教材に落とし込むのに、少なくとも半年間かかります。ケースそのものの字数は、日経ビジネスの特集よりも少し短いぐらいです。日経ビジネスの記者だと、企業に取材してこの分量の原稿を書くのに、早ければ1~2週間、遅くとも2ヶ月程度しかかかりません。けれど、講義のための教材となると、話が変わってきます。その講義の設計に合うように情報を精査して、凝縮する必要があります。実際にこの上海サントリーのケースだと、この裏には広辞苑のような分厚さのファイル2冊の情報があります。数ヶ月かけてそれだけの情報をかき集めたうえで、クラス設計をしながら、どれが必要な情報で、何を受講生に読ませて、考えさせて、知って欲しいことを学んでもらえるかというのを、熟考した結果、この小冊子程度の分量になるわけです。なので、これをひとつ作るのに半年かかるのです。

あきら つまりそれを作っていくのが、川上さんのMBAスクールの仕事ということなのですね。

川上 そうです。ケース1本ですらそれですから、プログラムを作成するのには、先に言ったようにとてつもなく時間がかかります。なので、グロービスに関して言うと、ある程度は不易流行の中の不易の部分、どの時代のビジネスでも大事なことを重点的に教えています。

あきら 普遍的で本質的なものを、ということですね。

グロービス経営大学院グロービス経営大学院のホームページ

川上 そうです。よくグロービスで、1960年代のアメリカの企業をケースとして扱ったりしますが、60年代も今も、企業の中で例えば、人事について考えなくてはいけないポイントは、それほど変わっていないのです。人間の組織は19世紀も20世紀も21世紀も、それほど変わらない。ある程度共通する部分を我々も持っていると思っています。そこの部分をしっかり教えています。しかし一方で、マーケティングやコミュニケーションの分野では、インターネットとデジタル技術のせいで、今現在もすごい勢いで状況が変わっています。10年前にやっていたことが、今は全く通じない世界というのは当たり前に出てきています。それをどのようにして教育プログラムに落としていくのかを、僕自身、非常に悩んでいるところです。世界のビジネススクールの先生にとっても、結論がなかなか出ないと思うのですが、それでも僕は、それをやりたいと思っています。

あきら 一つの授業をつくるのに膨大な時間がかかるんですね。たとえば生徒のなかに、将来、経営者になろうという人と、コンサルタントや講師といった職業をする人の2つがいた時に、そこに違いとかあったりしますか?今までの生徒さんは実際にどんな感じでしたか?

川上 その違いは非常に大事なポイントですね。考えたことを自分でやりたい、実現したいという人は、起業すれば良いのですが、誰かが考えついたことを体系化して他人に教えたいという気持ちの強い人は、コンサルタントや先生、またはジャーナリストなどになればいいと思います。それは“サポーティブインダストリー”と呼ばれている商売です。要するに、この人自体が大きなビジネスを作るというよりは、大きなビジネスを作っている人たちのためになることをやるというのが、サポーティブインダストリーの仕事です。

グロービス川上慎市郎MBA

世の中にはサポーティブインダストリーに向いている、または経営者に向いているというのは、これは個性なので、ゼロサムではなくて、濃淡あると思います。90%ぐらいは伝えたいけど、10%ぐらいはやってみたいという人とかね。その濃淡の度合いで経営者向きなのか、サポーティブな仕事向きなのかというのはあると思っています。
コンサルタントの人で、実際に事業会社の経営をやって、またコンサルタントで戻ってというように行き来をする人や、大学の先生でも会社の経営をする人はいます。そういう人たちは、経営者とサポーティブの割合が混ざっているんだと思いますね。

あきら 川上さん自身は、経営をしようとは思わないんですか?

川上 思わないです。僕は伝えるのが仕事で、自分で経営をやるのも、もちろん興味はありますが、それをやって本当に上手にやる人というのは、別の人だろうなと思っていたので。僕自身は会社をやりたいと思ったことは全くありません。ちなみに、うちの家内が会社をやっています。僕は起業家の夫です。起業家というのは、どんなに大変な仕事かというのは家内を見ていて思うので、絶対やりたくありません。なので、僕はサポーティブの傾向が色濃いのだと思います。

あきら 起業家の夫がMBAの講師というのはすごく面白いですね。それでは今までの経験から、どういった人がMBAスクールに来たら、その後上手に自分のキャリアを築くことができているんですか?

グロービス川上慎市郎MBA

川上 MBAビジネススクールに来て勉強する1番の意味は、「自分が今どこに立っていて、これからどこに向かおうと思っていて、それは自分にとってハッピーな事なのかどうか」というのを、確認することだと僕は思っています。
例えば、僕の講義を3ヶ月受けた方の中で、その最終講の終わりに「川上先生、本当に3カ月ありがとうございました。私はいかに自分が経営者に向いていないかよく分かりました。これからも1社員として頑張っていきたいと思います。経営者は目指しません」とはっきり言った生徒がいらっしゃいました。これは、その人にとって、すごい気付きだと僕は思います。

あきら へー、それはいいことなんですか?

川上 いいのではないですか。つまり、人間はみんながみんな経営者にならなくてもいいのです。向いていないと思えば、フォロワーシップを発揮して、経営者を支えるということで、力を発揮する人って絶対いると思います。グロービスの生徒はたくさんいますが、よく、「2・6・2の法則」があると彼らには話しています。最初の2割は経営者を実際に目指せる人です。僕のクラスでも15%ぐらいは実際に社長か、もしくはベンチャー企業の経営に飛び込みたいと思っている、または飛び込んでいる役員クラスの人たちです。残りの6割は、いわゆる普通の会社員です。彼らが、ミドルマネジメントでコツコツ会社をよくしていく、変えていく、現場をマネジメントしていくというのが、6割の人たちの大事な役割だと思っています。
残りの2割は、サポーティブセクターの人たちで、そういう会社の人たち、あるいは経営者を支えるために、外から知恵を与えます。その知恵を作り出して、世の中に広めるというジャーナリストや研究者、さらにはコンサルタントのような人たちがこの2割にいるべきだと思っています。

グロービス川上慎市郎MBA

この2・6・2が上手にバランスが取れていて、初めてビジネスは上手くいくのです。別に僕は6割の人がダメだとは全く思ってません。何故かというと、ドラッガーが「マネジメント」という言葉を発明した理由がそこにあるからです。彼は「トップダウンでも、完全なボトムアップでも世の中は絶対回らない、ミドルレベルの人たちが上手く回す必要がある」と言っています。マネジメントという言葉は、「やりくりする」という意味です。つまり、やりくりできるだけの知恵があることが大事だということです。それが組織をよくします。もちろん、どこに属していても、マネジメントを勉強すると、その恩恵は計り知れません。要は、自分がこの「2・6・2」のどこにいるのか、どこに行きたい人間なのかを知る必要があるということです。そして、それを知ることが出来るのが、MBAスクールなのかなと思っています。

あきら 面白いですね。では漠然と経営者になりたいと考えている人たちが、川上さんのグロービスの授業を受けた時に、自分の進む方向性と自分には向いていない方向性が分かるというところですね。

川上 分かってほしいなと思っています。

あきら 川上さんは、MBAの講師というかたい職業なのに、かなりフラットで型にはまらない印象があります。この川上さんの元でMBAを共に勉強するのは、とても面白そうだなって思いますね。次回【中編】は、もっと踏み込んだ質問をしていく予定です。

グロービスMBA准教授・川上慎市郎×中村あきら対談

中編につづく

次回は、「やりたいこと出来たらさっさとMBAやめて起業しろ!」をお届けします。

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中村 あきら

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